26歳で悪性リンパ腫になった生物系大学院生

混合細胞型ホジキンリンパ腫 (第4頸椎の生検) . 頸椎・腰椎・肩甲骨・腹部リンパ節に散在 (治療前のPET-CT). ABVD4コース時点で第4頸椎以外はPET陰性になるも, 5コース目では第4頸椎が増悪, ESHAPを1コースでSD, ICEを4コースでPR, その後は放射線治療46Gyで自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法になだれ込み, 社会復帰しつつアドセトリス15コース施行. 現在経過観察(2020/04). ~頸椎後方固定したおかげで首が動かせず、物理的に前向きなった(笑)~

妊孕性保存についての後悔

妊孕性(にんようせい、と読むらしいです)とは、文字通り妊娠のしやすさ(してもらいやすさ)のことを意味します。

 

化学的な抗がん剤は、単にがん組織を攻撃するだけではなく、体のあちこちの組織や器官にダメージを与えます。ダメージは骨髄や消化管上皮などだけではなく、生殖器官にも及びます。つまり、抗がん剤によって妊孕性が失われる可能性がある、ということです。

 

私の後悔とは、「ああ、最初に抗がん剤する前に精子凍結しておくんだった」というものです。

 

当初、ホジキンリンパ腫の標準療法であるABVD療法で治療をしていました。このABVD療法の開始前に、医師からは「あなたのケースならこのABVD療法で9割は治る」ということと、「ABVD療法で男性不妊になることは稀で治療終了後半年ほどで妊孕性は戻る」という説明を受け、それならば特に精子凍結に時間を割かずに治療を開始したほうがいいな、ということになりました。

そのときは自分ががんであるという状況そのものにまだ慣れていなく、自分がABVDで治らない1割のほうになる場合にどうなるのか、ということまで考えが及びませんでした。

 

しかし、実際はABVD治療中に再発しました!

 

再発・難治性ホジキンリンパ腫に対しては、基本的に「救援化学療法での寛解導入」+「自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法」が適用になるのですが、この大量化学療法によって既報によると、男性の場合で妊孕性が維持されるのは0%なようです1)2)(少なくともこの論文ではそう書いてある、ということに過ぎないといえば過ぎないのですが)。

 

実際には救援化学療法前に精子凍結したのですが、ABVDを5コース(10回の抗がん剤投与)した直後だったこともあり、無精子症ないし乏精子症な感じでした(元々、乏精子症だったかもしれないけどそれは調べてないからわからないです)。

 

子どもが欲しい人生だった。

そもそも生き残れるかどうか分からんのにこんなことを思うのは変かもしれないけど。。。。。。しかも未婚。

 

いま振り返ってみれば、妊孕性についてはガイドラインに則った説明をうけ意志決定をしたわけですが、「治療中の再発(=ABVDによる短期的な不妊状態から抜け出していない状態)という不測(?)の事態によって、私は妊孕性をほぼ喪失することになった」と言えると思います。浅はかだったと思います。

とにかく、これから抗がん剤を行なう予定で、将来的に子どもが欲しいかもしれない年齢の男女は、最初の抗がん剤をする前によく考えておいた方が良く、場合によっては何らかの手を打っておいた方がよい、と個人的には思います。

たとえその抗がん剤が、長期的な妊孕性喪失を伴わないもの(ABVDのような)であったとしても、その治療が上手くいかなくなった場合に妊孕性喪失を伴う治療に移行することが想定されうるなら、精子凍結や卵子保存を考えるべきだと思います(医師は初回治療が上手くという希望的観測を排して、上手くいかなかった場合の最悪の想定についても抗がん剤投与前に説明した方がよい気がする)。このレビュー4)とかには、ABVDでの精子凍結はオプションで考えよう、という結論で書かれており、妥当な結論であるとは思いますが、私のような状態になる可能性があることを考慮すると、患者が「子どもが好きである」「将来的に子どもが欲しい」という選好を有しているなら、オプションではなくマストだと考えてよいと思います。

精子卵子の保存は、それが抗がん剤治療による不妊の回避という目的であっても保険の適用外なので3)、お金はかかりますが、それでも考慮する余地はあると思います。

 

 

 

改めて自分が主張することでもないかもしれませんが、上記のように主張したいです。もしかしたら随分偏った意見を述べてしまったかもしれませんが、ご寛恕を乞いたく存じます。

 

 

  1. Socié, G., Salooja, N., Cohen, A., Rovelli, A., Carreras, E., Locasciulli, A., Korthof, Weis J., Levy V., and Tichelli, A. (2003). Nonmalignant late effects after allogeneic stem cell transplantation. Blood, 101(9), 3373-3385.
  2. 自家移植ではなく同種移植の場合の大量化学療法だと17-61%は妊孕性が残るらしいです1)。完全に予想ですが、やはり同種移植だと自家移植に比べて移植片対腫瘍効果が大きいから大量化学療法のシビアさは自家移植に比べて緩く、それによって精巣へのダメージも小さいのかなあ。ちなみに卵巣の場合はこれまた全然数値が異なるので、上記論文1)のTable 3を参照されたい。
  3. そもそも国家って、人間の存続と繁殖のための組織である、と考えると、存続のための手段である医療には手厚い保険制度があるのに、繁殖のための現行唯一の手段である有性生殖が脅かされたときに関する保証が充実していないというのは何故なのだろう。また、精子凍結は10万円未満くらいでできるのに、卵子保存はかなり高額になるのも辛い現実(自治体によっては助成しているところもあるみたいだけど)。
  4. Harel, S., Fermé, C., and Poirot, C. (2011). Management of fertility in patients treated for Hodgkin’s lymphoma. Haematologica, 96(11), 1692-1699.